( 研究紹介 ) Research

研究概要 Outline

薬物送達システム(drug delivery system: DDS)は、薬物の効果部位への集積を濃度と時間の観点から最適化することを目的した製剤技術の1つです。私達の研究室では、ナノ粒子などのナノテクノロジーを駆使したDDS、「ナノDDS」を扱っています。簡単に述べると、ナノサイズのカプセルに薬物を搭載し、体内での薬物の動きを自在に制御するDDS技術です。がん免疫療法を研究の出口に据え、「がん免疫応答を制御するためのナノDDSの開発」という薬剤学の研究と「ナノDDSを活用したがん免疫応答機構の解明」という腫瘍免疫学の研究の両輪を相乗的に駆動させることで、ナノがん免疫療法の創出を目指しています。

研究テーマ Theme

THEME 01

Development of
Nano-Drug Delivery System
ナノDDSの開発

がんに打ち勝つための免疫細胞を創るための機能性分子を運ぶナノDDSの開発を行っています。免疫細胞の機能やがん免疫応答を指標に、機能性分子を効率的にナノDDSへと搭載する方法、標的となる免疫細胞へと選択的に送達するためのナノDDS技術、搭載した機能性分子の効果を最大化するためのナノDDS技術の開発に関する研究を進めています。

  • 細胞サブセットを識別する標的化技術の開発

    疾患の原因となる細胞サブセットが明らかになり、細胞サブセットが医薬品の標的となることが予想されます。私達は、独自の戦略に基づいてリガンドを脂質ナノ粒子(LNP)へと修飾することで、免疫細胞をサブセットレベルで識別することに成功しています。現在は、標的化技術のさらなる高度化、標的細胞サブセットの拡大、疾患治療への応用を進めています。

  • Natural killer(NK)細胞の機能制御を目指したナノDDS開発

    NK細胞は強力な細胞傷害活性を有し、T細胞の攻撃を回避したがん細胞の排除に有用です。私達は、最新の腫瘍免疫学の知見に基づき、NK細胞活性化戦略を立案し、ナノDDSを設計しています。アジュバントを搭載したナノDDS開発や機能性核酸を搭載したナノDDSによるNK細胞の機能改変に関する研究を進めています。

  • 免疫細胞療法の強化を目指したナノDDS開発

    現在、臨床で成功を収めている免疫細胞療法は、ウイルスベクターを用いて機能改変されています。私達は、安全性やコストの面から非ウイルスベクターであるナノDDSを用いた免疫細胞の機能改変に取り組んでいます。これまでに世界トップクラスの効率で機能性核酸を免疫細胞に送達可能なLNPの開発に成功し、がんに対する新しい免疫細胞療法の開発へと展開しています。

  • 腫瘍血管を標的とした新規がん治療法の開発

    偶然、私達は腫瘍血管細胞の機能改変と自然免疫応答を活性化するLNPを併用した結果、腫瘍血管の破壊と強力ながん治療効果を示すことが明らかになりました。新しい機序かつ幅広いがん種に有効であることから、新しいタイプのがん治療法として期待できます。現在は、メカニズム解明とメカニズムに基づいたナノDDS処方の最適化を目指して研究を進めています。

THEME 02

Elucidation of
Cancer Immune
Response Mechanisms
がん免疫応答機構の解明

ナノDDS技術を活用することで、新しいがん免疫応答のメカニズム解明を目指しています。免疫細胞の機能を制御する中で、がん免疫応答を最大化する免疫細胞のフェノタイプを明らかにし、ナノDDS開発へとフィードバックすることで、より優れたナノがん免疫療法が実現できると考えます。

  • ナノDDSによるがん免疫応答制御メカニズムの解明

    開発したナノDDSによって誘導されるがん免疫応答の詳細なメカニズムを腫瘍免疫学的な解析から明らかにしています。解明したメカニズムをナノDDS設計にフィードバックし、ナノDDS機能の最大化を図ること、ナノDDSを使うことで、がん免疫応答メカニズムに関する新しい知見を発信することを目指しています。

  • がん免疫応答を最大化する免疫細胞フェノタイプの解明

    免疫細胞サブセット標的化能を付与したナノDDSを用いて人為的に免疫細胞の機能を改変し、がん免疫応答を解析することで応答に最も重要な免疫細胞のフェノタイプを同定する。様々な腫瘍微小環境の免疫ステータスに合わせた新しいがん免疫療法の開発に貢献する知見を発信することを目指しています。

  • 腫瘍微小環境の免疫ステータス解析

    腫瘍微小環境の免疫応答がどのような状態にあるのか、即ち免疫ステータスを把握することは、がん免疫療法の治療戦略やナノDDS設計に非常に重要です。私達は、ナノDDSを用いたがん免疫療法の戦略立案のために、簡便に腫瘍微小環境の免疫ステータスを把握する解析方法を構築しました。現在は、精度の向上を目指した研究や他の研究テーマへの応用を進めています。