生体内に投与された薬物が受ける様々な代謝反応の基礎的研究と教育を充実するために、薬物代謝化学研究室は平成9年4月に創設されました。薬物代謝が扱う領域は、酵素の精製、遺伝子の単離、導入遺伝子の発現系構築や発現調節領域の研究を初めとした基礎的な分野から、臨床薬理学に基づいたヒトにおける代謝反応の個体差、人種差、薬物相互作用などの分野まで大変広いものです。さらに、毒性学や中毒学にも代謝レベルでの理解が必要です。 今後、薬物代謝の研究を通じて、ヒトに役立ち、社会に貢献できる研究を指向していきたいと考えています。 |
(1)薬物代謝反応の多様性と薬物相互作用に関する研究 臨床で問題となる薬物による副作用の3分の1以上は、代謝反応に起因するものであると言われている。そのうちの90%以上がチトクロームP450による代謝反応が関与する。最近、代謝反応に起因する薬物相互作用に関心が高まり、医療用医薬品の添付文書も相互作用をチトクロームP450の分子種レベルで説明するように改訂されてきている。さらに、1997年米国FDAの「Guideline for Drug Metabolism and Drug Interactions」でも示されたように、薬の開発から臨床での適切な使用に至るまで、代謝反応が関わる薬物相互作用に充分注意をする必要が言われるようになってきた。私共の研究室では、すでに臨床で使用されている薬に見いだされている様々な薬物相互作用について代謝レベルで主にin vitroで検討することにより、相互作用についてさらに理解を深めることを目的としている。 |
(2)実験動物における薬物代謝のヒトへの外挿に関する遺伝子レベルの研究 実験動物やin vitroでの試験結果からヒトでの結果を予測することを「外挿」と言う。すなわち、実験動物で得られた代謝物が本当にヒトにも起こり得るものであるか等が問題となる。ラットやマウスの齧歯類よりも、ヒトに近いイヌやサルを用いた研究も盛んに行われているが、膨大な数の実験動物の使用を少しでも減らすためにも、適切にヒトへの外挿ができる実験手段の開発が望まれている。こうした観点から、ヒトの薬物代謝酵素の遺伝子を導入したあらたな試験系の開発を目指している。 |
(3)チトクロームP450を中心とした薬物代謝酵素の誘導機構および薬物相互作用に関する研究 薬物や環境中に排出される様々な物質(ディーゼル排気、廃棄物焼却場からのダイオキシン)さらに喫煙や食物の焼け焦げなどにより、ヒトの薬物代謝酵素は誘導される。その結果、薬効の低下や発癌など様々な現象に結びついていく。薬物代謝酵素の誘導機構については、その複雑性や適切な実験手段が不足していることから解明が進んでいない。ヒト生体内での薬物代謝酵素の誘導による薬物相互作用についても明らかにすべきことが多い。この分野の研究にも取り組む予定である。 |